歩いていて段差につまずいたり、スポーツ中に足首をひねったりして、「痛っ!」と思った経験はありませんか?
その代表的なケガが 捻挫(ねんざ) です。特に足首の捻挫は日本で非常に多い外傷で、整形外科の外来でも頻繁にみられるケガです。そして当院が最も得意とする分野です!自身をもって治療を提供します!
今回は、
・捻挫のメカニズム
・治療の流れ
・固定に使う「シーネ」とは何か
・早く治すためのポイント
などを専門的かつわかりやすい言葉で解説します。
1.捻挫とは?|まずは基本の理解から
捻挫とは、関節を支える靭帯(じんたい)が伸びたり、部分的・完全に切れるケガのことを指します。
● どんな場面で起こる?
-
運動中に足をひねる
-
段差を踏み外す
-
転倒する
-
ジャンプの着地に失敗する
特に多いのは**足関節外側の靭帯損傷(前距腓靭帯ATFLの損傷)**です。
● 痛みの原因は?
靭帯が急激に引き伸ばされると、
・炎症
・腫れ
・関節内出血
が起こり、これが痛みの原因になります。
● 重症度の分類
一般的には3段階に分けられます。
| 重症度 | 状態 | 例えるなら |
|---|---|---|
| Ⅰ度 | 靭帯が伸びただけ | ゴムが少し伸びた状態 |
| Ⅱ度 | 靭帯の一部が切れる | ゴムが部分的に裂けた状態 |
| Ⅲ度 | 靭帯が完全に切れる | ゴムが完全に切れている状態 |
Ⅲ度では手術が必要になることもあります。

2.捻挫の治療の基本|RICEだけでは不十分?現代の治療戦略
昔から「捻挫=RICE(安静、冷却、圧迫、挙上)」と教えられてきましたが、
最新の欧米のガイドラインでは、最適な回復を目指すためには“早期の機能回復”が重要とされています。
ここでは、実際の整形外科での一般的な治療の流れをご紹介します。

3.まず行う治療|評価と初期処置
●(1)レントゲンや超音波検査
捻挫と思っていても、骨折が隠れていることがあります。
特に腫れが強い・体重をかけられない場合は注意が必要です。
超音波検査では、靭帯の損傷の程度をリアルタイムで評価できます。
●(2)痛み・腫れのコントロール
初期は以下を組み合わせます。
-
軽く冷やす
-
包帯で圧迫
-
足を心臓より高く上げる
-
NSAIDs(痛み止め)の使用 ※必要に応じて
ただし「冷やしすぎ」は血流を悪くするため、10~15分を目安に。

4.捻挫治療で使われる“シーネ ,ギプス ”とは?
捻挫の治療を調べていると出てくる**「シーネ」「ギプス」**。
● その正体は?
シーネとは、関節を動かないように固定するための副木(ふくぎ)のこと。
主にギプスの素材を部分的に使い、包帯と組み合わせて「動かないように保つ固定具」です。
● シーネの特徴
-
ギプスほど全周固定ではない
-
外すことができる(医療者が調整しやすい)
-
炎症期にとても効果的
● なぜ必要なのか?
靭帯が損傷した直後は、
無理に動かすと再びダメージが入りやすいため、
シーネで適切に保護することで回復を助けます。

5.固定の期間はどれくらい?
症状によって以下が目安です。
| 重症度 | 固定期間 | 補足 |
|---|---|---|
| Ⅰ度 | 3~5日 | 早期のリハビリが重要 |
| Ⅱ度 | 1~2週間 | シーネやサポーター併用 |
| Ⅲ度 | 3週間以上 | 場合によって手術 |
長く固定すると筋力低下が起きるため、
痛みが落ち着いたら適切なリハビリへ移行します。

6.リハビリ|早く治すために必須のプロセス
捻挫は放っておいて良くなるものではありません。
特に多いのが「治り切らずにクセになる」パターンです。
● リハビリで特に重要な3つ
① 可動域の回復
動きが硬いままだと再発しやすくなります。
※痛みの範囲で少しずつ行うことがポイント。
② 筋力トレーニング
足関節周りの筋肉(特に腓骨筋)を鍛えることが再発予防になります。
③ バランストレーニング
“グラつく”足首を安定させるために必須です。

7.放置するとどうなる?
捻挫を軽くみる人は非常に多いですが、
適切に治療しないと **「慢性足関節不安定症」**という状態になります。
-
何度も捻挫する
-
階段でグラッとする
-
長時間歩くと痛む
これらは典型的な症状です。
整形外科では、超音波やMRIで原因を確認し、リハビリ・装具・場合によって手術を検討します。

8.捻挫を早く治すためのポイント|今日からできる予防とケア
捻挫は初期治療とリハビリが非常に重要です。
患者さんがよく誤解するのは「痛くなければ治った」という考え方。しかし靭帯は痛みが軽くなっても完全に治っていないことが多く、再発の大きな原因になります。
ここでは、早期回復と再発予防の実践ポイントをまとめます。

① 早期からの適切な荷重(歩く刺激)が重要
最新の整形外科の研究では、
痛みの範囲で少しずつ体重をかけたほうが回復が早くなることが示されています。
完全に動かさない期間が長すぎると、
-
関節が固まる
-
筋力が落ちる
-
血流が悪くなる
など、逆効果の面が多いため注意が必要です。
② サポーターやテーピングを併用する
スポーツ復帰の際は、足首を守るサポーターやテーピングが再発予防に役立ちます。
特にバスケットボール・サッカー・バレーなど“着地が多い競技”の選手では効果的です。
③ 再発予防のためには筋トレが最重要
捻挫がクセになる人は、
「腓骨筋(ひこつきん)」という外側の筋肉の反応が遅くなっていることが多いです。
そのため、
-
チューブトレーニング
-
タオルギャザー
-
スタンディングカーフレイズ
などが効果的。
とくにバランスディスクを使った訓練は、再発予防に最も有効とされています。
9.子どもの捻挫・大人の捻挫の違い
■ 子ども
靭帯が強く、骨の「成長線(骨端線)」が弱いため、捻挫と思っても 骨折(いわゆる“剥離骨折”)が隠れていることが多いです。
そのため、
子どもの捻挫=レントゲン必須 と考えるほうが安全です。
■ 大人
靭帯損傷が中心。
適切に治療しないと「慢性不安定症」になり、将来的に変形性足関節症へ進むこともあります。

10.スポーツ復帰の目安
| 重症度 | スポーツ復帰までの目安 |
|---|---|
| Ⅰ度捻挫 | 1〜2週間 |
| Ⅱ度捻挫 | 3〜6週間 |
| Ⅲ度捻挫 | 2〜3ヶ月以上 |
ただし、
痛みがないこと
片足立ちでグラつかないこと
ジャンプ後に安定して着地できること
などの機能評価が必要です。

11.シーネ固定後の注意点
シーネは優れた固定具ですが、以下に注意が必要です。
● ① 濡らさない
濡れると皮膚がふやけてトラブルの原因になります。
● ② 圧迫が強すぎないかチェック
指先が紫になる・激しい痛みが出る場合はすぐ再受診。
● ③ 痛みが落ち着いたらリハビリへ移行
固定しすぎると治りが遅くなるため、「固定→リハビリ」の切り替えが最も重要です。

12.まとめ|捻挫は“早期治療”と“適切なリハビリ”で治るケガ
捻挫は軽くみられがちですが、
適切に治療しないと長期的な痛みや“クセになる足”につながります。
「捻挫とは?」
→ 靭帯が伸びたり切れたりするケガ。
「シーネとは?」
→ 関節を動かさずに守るための固定具。
そして、
治療の鍵は「初期処置」「適度な固定」「早期リハビリ」 の3点です。
もし歩けないほどの痛み、腫れが強い、何度も捻挫を繰り返す場合は、整形外科で早めに診察を受けてください。

13.Q&A|患者さんからよく聞かれる質問

Q1.捻挫は自然に治りますか?

軽症であれば治りますが、靭帯が伸びたまま固まることが多く、再発しやすくなるため治療は必要です。

Q2.湿布だけで治りますか?

湿布は痛みを和らげるだけで、靭帯の修復を助けるわけではありません。
固定とリハビリが重要です。

Q3.シーネとギプスは何が違うの?

-
ギプス:完全に固める固定
-
シーネ:部分的な固定で外せる(調整が可能)
炎症期はシーネが使われることが多いです。

Q4.捻挫してすぐ温めてもいい?

急性期(〜48時間)は冷やす方が炎症を抑えられます。
その後、痛みが落ち着いてきたら温めて血流を改善させる方が効果的です。

Q5.何度も捻挫します。手術は必要ですか?

「慢性足関節不安定症」の場合、リハビリをしても改善しなければ手術が検討されます。
超音波やMRIで評価して判断します。

Q6.子どもの捻挫はなぜ注意が必要?

成長線にダメージが入りやすく、捻挫と思ったら骨折だったというケースが多いからです。




