ハンドボールと足首の捻挫について

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【なぜハンドボールで足首の捻挫が多いのか?】

診察室で「試合中に着地した瞬間、グキッと…」というお話を聞くことはよくあります。 ハンドボールは、ジャンプ・着地・急な方向転換など足首に負担がかかる動きが多く、捻挫を起こしやすいスポーツの一つです。
今回は、実際の捻挫エピソードとともに、「なぜハンドボールで捻挫が起きやすいのか」「どう予防・対処すべきか」についてわかりやすくご紹介します。

ジャンプ後の着地で「相手の足の上に着地して…」

「試合中にシュートを打ったあと、相手の足の上に着地してしまって…。足首がグニャっとなって、その場で動けなくなりました」
ハンドボールではジャンプしてシュート、パス、ディフェンスのブロックなど、空中での動きが多くなります。問題となるのは「着地」の瞬間です。
着地時に足裏全体で地面を捉えられず、つま先や外側に体重が偏ると、足首の外側に強いひねりが加わります。特に相手の足の上など不安定な場所に着地すると、予測不能な角度からの衝撃が足首に集中し、外側靭帯を損傷しやすくなるのです。

また、着地直前の「空中姿勢」も捻挫のリスクに影響します。身体の軸がブレていたり、相手との接触でバランスを崩していた場合、足首でそのバランスを取ろうとして過度な負担が集中することもあります。
このように、「着地の不安定さ」と「接触プレー」が重なると、捻挫のリスクは一気に跳ね上がるのです。

「テーピングを忘れて練習に出てしまった」

「普段はテーピングしてから練習に出るんですが、その日に限って忘れてしまって…。ちょっとしたステップでグキッと」
足首を一度でも捻挫した経験がある選手は、靭帯が緩みやすくなっており、再発のリスクが高い状態です。いわゆる「捻挫ぐせ」がついてしまっている状態ともいえます。
テーピングやサポーターには、足首の可動域を制限することで過度なひねりを防ぎ、足首の安定性を高める効果があります。とくにジャンプや急な方向転換の多い競技では、こうした装備が「足首の補助ブレーキ」として非常に重要な役割を果たします。

それを怠ると、本来テーピングが担うはずだった安定性の補助が失われ、わずかなステップ動作でも過伸展や過内反(内側へのひねり)を起こしやすくなり、結果的に捻挫へとつながってしまうのです。
つまり、ケガの予防のためにしている“ルーティン”は、単なる習慣ではなく、医学的にも理にかなった「再発防止策」だということです。

「疲れていたのに無理してプレーを続けたら悪化」

「足首を少しひねったのに、試合中だったので交代せずにプレーを続けました。終わってみたら腫れて、翌日は歩くのもつらくて…」
試合中は集中していることや、アドレナリンの影響で痛みに気づきにくくなることがあります。しかし、足首をひねった直後は、靭帯や周辺組織が損傷を受けている状態であり、本来は即座に負荷を避けるべきタイミングです。

にもかかわらずプレーを継続してしまうと、足首の関節は不安定な状態のまま動かされ続け、靭帯損傷の範囲が広がったり、関節内に炎症が強く起こったりします。さらに、足関節周囲の筋肉も過剰に使われ、腫れや二次的な痛みが強くなる可能性もあります。

ハンドボールは短時間でプレーが展開するスピードスポーツであるため、「少しの痛みなら我慢」と無理をしやすい傾向があります。しかし、その判断ミスが回復期間を長引かせ、最終的に試合からの長期離脱を招くリスクを高めるという点を、選手も指導者も知っておく必要があります。

【リハビリ】コートに戻るための回復ステップ

「2~3日休んで痛みが引いたから練習に戻ったら、またすぐ同じところを捻ってしまった」 このように、“痛くない=治った”と誤解し、早期に復帰して再受傷する選手も少なくありません。 ハンドボールのように**瞬発力・ジャンプ力・バランス力**が求められる競技では、筋力・柔軟性・固有感覚の回復がとても重要です。

炎症期(受傷後~3日)

まずは安静と冷却。熱感・腫れがある時期は、プレーはもちろん、無理な日常動作も避けましょう。

  • RICE処置(Rest・Ice・Compression・Elevation)を徹底
  • この時期は試合や自分のプレー動画を見て戦術の勉強をするのがおすすめ。ポジショニングや動きの確認で、次の成長につながります
  • チームのLINEグループやSNSで近況報告:つながりを保ち、孤立を防ぐ工夫も大切です

修復期(3日~2週間)

痛みが引いてきたら、ゆっくりと動きを戻します。

  • 足首の可動域改善運動:足首回し、タオルギャザー、チューブでのトレーニング
  • 直線歩行や軽いジョグから再開
  • まだジャンプやステップ練習は避けましょう
  • この時期はポジション別の戦術理解を深めるチャンス。ノートにプレーの課題と改善点を書き出すと、復帰後のプレーが変わります

回復期(2~4週間)

競技復帰のための総合的な足首トレーニングを開始。

  • 段差でのカーフレイズ:ふくらはぎの筋力を強化
  • 目を閉じての片脚立ち:バランス力チェックと強化
  • サイドステップやストップ動作の練習:競技に近い動きでリスク評価
  • ジャンプ着地の反復練習:衝撃への耐性を回復
  • この時期はチーム練習を見学して、動きの変化を観察するのも◎。仲間のプレーを外から見ることで、新しい気づきが得られます

復帰判断の目安

プレー復帰は主観ではなく、客観的な動作チェックを。

  • ジャンプ→片脚着地が痛みなくできる
  • 目を閉じて10秒間片脚立ちが可能
  • ダッシュ・急停止が問題なくできる
  • 練習での軽いゲーム形式に参加し、違和感がない
  • この時期は復帰後の目標設定(「次の大会に出たい」「ミスを減らしたい」など)を紙に書き出し、モチベーションを具体化しましょう

リハビリ試合のすすめ

足首のケガから復帰する際、いきなり公式戦に出場するのは再受傷のリスクが高まります。
リハビリ試合とは、「本番に近い動きを少しずつ再現しながら、身体の状態や感覚を確認する段階的なトレーニング」のこと。
無理のないステップを踏みながら、自信とパフォーマンスを取り戻すことが目的です。

ステップ①:軽負荷の実戦練習から

  • パスやドリブルなど、相手と接触のない基本動作をチームに混ざって行う
  • ディフェンスのないシュート練習スローインの動作確認なども有効
  • 足首の反応や痛みの有無をチェックしながら無理せず実施

ステップ②:限定的な練習試合参加

  • 「前半5分だけ」「ディフェンスのみ参加」など役割を限定して参加
  • 事前にコーチ・トレーナーと相談し、負荷をコントロール
  • 練習後は痛みや違和感の変化を記録

ステップ③:実戦形式のゲーム参加へ

  • 通常の練習試合に参加。ただし「痛みが出たらすぐ抜ける」などのルールを設ける
  • ジャンプ・スピード・接触などの動きで復帰後の動作確認を
  • チームメイトに「リハビリ中」であることを伝えて配慮を依頼

ステップ④:動画やコーチのフィードバックで客観評価

  • 練習の様子を撮影し、ケガ前との違いや動作の癖をチェック
  • コーチと動画を見ながらフィードバックを受け、今後の課題を明確に

小さな「できた!」が自信に変わる

リハビリ試合は、100%の力を出す場所ではなく、状態を確認するプロセスです。
「ジャンプできた」「着地が安定していた」などの小さな成功を重ねることで、プレーへの自信が少しずつ戻ってきます。
逆に「痛みが出た」「不安だった」といった感覚も、次に進むための大切なサインになります。

【再発予防】足首を守る3つの準備

ハンドボールのようにジャンプや急な方向転換、接触プレーが多い競技では、足首の捻挫が「一度きり」では終わらないことがよくあります。
実際、診察室では「前に捻挫したところをまたやってしまいました」「痛みがあるけど試合に出続けたら悪化しました」といった声をよく聞きます。

足首の靭帯は一度損傷すると、完全に元通りになるまでには時間がかかり、再発リスクも高い状態が続きます。
だからこそ、「ケガをしない身体づくり」や「再発を防ぐための準備」がとても大切になります。

ここでは、競技復帰後も安心してプレーを続けるために必要な、「足首を守るための3つの具体的な対策」をご紹介します。
練習や試合前の準備はもちろん、日常生活でできることまで含めて、ぜひ取り入れてみてください。

正しい装備(サポーター・テーピング)

  • 試合・練習時は足首をサポート:テーピングやサポーターを活用
  • シューズのフィット感も重要:緩い靴は捻挫を誘発しやすい

注意力と判断力の持続

  • 疲労時や後半は特に注意
  • 着地の瞬間に意識を集中
  • 転倒や接触後は無理せず報告・相談

日常の足首トレーニング

  • 段差でのカーフレイズ:ふくらはぎの強化
  • タオルギャザー・足首回しで柔軟性アップ
  • 片脚立ちバランス練習:安定性の向上
  • 階段や坂道を活用した負荷トレーニングもおすすめ

最後に|「長くプレーを楽しむために」

足首の捻挫は一見軽いケガに思えるかもしれませんが、放置したり、十分なリハビリをせずに復帰したりすると、慢性的な不安定感や痛みを抱える原因になりかねません。
繰り返し同じ箇所をケガしてしまうことで、プレーの質が落ちたり、思いきった動きができなくなったりする選手も少なくありません。

しかし、適切な応急処置、段階的なリハビリ、日常的な予防トレーニングによって、捻挫の再発リスクを大きく減らすことができます。
「もう一度全力でプレーしたい」「ケガを繰り返さず、長く競技を続けたい」と願うなら、焦らず、身体としっかり向き合うことが大切です。

また、ケガをしたからこそ、自分の身体の使い方やプレーの癖に気づくチャンスでもあります。
リハビリ中に取り組んだトレーニングや体の使い方の見直しが、結果的にケガ前よりも良いパフォーマンスにつながることもあります。

目標に向かってがんばる選手一人ひとりが、安心してプレーに集中できるように、私たちも全力でサポートしていきます。
ケガを乗り越えた経験は、きっとあなたの競技人生をより強く、豊かなものにしてくれるはずです。

長くハンドボールを楽しむために、今できることから少しずつ始めていきましょう。

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