【注意】その固定、間違ってるかも?ギプスとシーネの違いと正しい使い分けを整形外科医が解説!
「捻挫でギプスなんて大げさじゃない?」
「この固定、本当に合ってるの?」
日常生活やスポーツ中のけがで使われる“固定”。実はこの固定方法を間違えると、治癒が遅れたり、後遺症につながることもあります。この記事では、整形外科医がギプスとシーネの違いと、正しい使い分けについて解説します。
ギプスとシーネの基本的な違い
足首を捻挫したとき、診察後に「ギプスで固定しましょう」あるいは「シーネで様子を見ましょう」と言われた経験のある方も多いのではないでしょうか?この2つはどちらも外固定具として使用されますが、構造や目的、使われるタイミングに明確な違いがあります。ここでは、ギプスとシーネの違いを、整形外科医の視点から詳しくご説明します。
構造の違い:ギプスは“360度”、シーネは“片面のみ”
まず最も大きな違いは、巻かれている範囲です。
ギプス(ギプス包帯・ギプスシャーレ)は、関節をぐるっと一周、360度全体的に覆って硬化させる固定具です。安定性が高く、骨折や靭帯断裂など、強い固定が必要な場合に適しています。
シーネ(副木)は、患部の片側だけを覆うL字型のプレート状固定具です。表面には柔らかい綿が巻かれ、包帯で巻いて固定されますが、完全には固めず“余裕”を持たせます。
このため、シーネは腫れのある急性期や、一時的な固定に使用されることが多いです。
固定力の違い:ギプスは強固、シーネは柔軟性あり
ギプス固定は、関節の動きを完全に制限することで患部の安静を確実に保ち、骨の癒合や靱帯の修復を促進する目的で用いられます。一方、シーネ固定は腫脹に対応しやすく、痛みを緩和しつつ関節の過剰な可動を防止する“初期対応”の要素が強いです。
比較項目 | ギプス | シーネ |
---|---|---|
固定範囲 | 360度(全面) | 片側(部分) |
安定性 | 非常に高い | 中程度 |
腫脹への対応 | 難しい(むくみで圧迫リスクあり) | 柔軟に対応できる |
主な使用タイミング | 受傷後の固定・長期間 | 急性期・応急処置 |
装着感 | 取り外し不可 | 取り外し可能(応相談) |
U字型とL字型シーネの違い
U字型シーネ:足関節捻挫に多用されます。足の裏からくるぶしを包み込み、左右のブレに強い構造。
L字型シーネ:前腕・手首に多く使用。肘下から手のひらを支え、骨折や腱炎などに向いています。
固定の目安期間と注意点
骨折:3〜6週間が一般的
捻挫:1〜3週間程度
⚠️ これはあくまでも目安であり、年齢・部位・重症度により異なります。
✔️ 固定が長すぎると「関節拘縮」「筋萎縮」など悪影響が出る可能性も!
✔️ レントゲンや診察で回復具合を確認しながら、段階的にリハビリへ移行することが重要です。
お風呂はどうする?
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ギプスは防水ではありません。
→ 入浴時は防水カバーやビニールで完全に覆いましょう。
シーネは取り外し可能な場合もありますが、必ず医師の許可を得てから外してください。
運動や日常生活の制限は?
✔️ 固定中でも「動かせる部位はしっかり動かす」ことが大切です。
特に高齢者では、筋力低下や関節拘縮を防ぐ目的で、膝・股関節などを積極的に動かしましょう。
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歩行時の免荷(荷重NG)or荷重OKの判断は医師に確認を。
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転倒や夜間のトイレなど、日常生活上の事故には十分な注意を。
ギプスカットって怖くない?
「ギュイーン」という音が怖い…という声もありますが、ギプスカッターは回転ではなく振動式の刃を使っており、皮膚には傷がつかないよう設計されています。
✔️ 安心して治療を受けられるよう、必要に応じて“カット体験”なども提供しています。
よくある誤解と注意点・よくあるQ&A
- ❌「捻挫にギプスなんて大げさでは?」
→ 重度の靭帯損傷や剥離骨折ではギプス固定が必要な場合もあります。 - ❌「痛くないから外していいですよね?」
→ 痛みの有無に関係なく、組織の修復期間に応じた固定が必要です。 - ❌「濡れても乾かせばOK?」
→ ギプスは湿気で内部が蒸れ、皮膚トラブルの原因になります。必ず防水カバーを。
Q1:捻挫でもギプスにするの?
A1:はい、場合によってはギプスを使用します。
特に靱帯が完全に切れてしまっている「重度の捻挫」や、関節の安定性が著しく損なわれているケースでは、安定性の高い固定が必要になるため、ギプス固定が選択されます。通常はシーネやサポーターで十分なことも多いですが、再発リスクや運動復帰の計画なども考慮して判断されます。
Q2:ギプスを外すとすぐ動かしていい?
A2:すぐに無理に動かすのは危険です。
ギプスを外した直後は関節が硬くなっていたり、筋力が低下していたりすることがあります。リハビリを含めた段階的な運動回復がとても大切です。医師の指示に従い、負荷をかける順番やタイミングを守りましょう。急に強く動かすと、痛みや再受傷のリスクがあります
Q3:ギプス中、指がむくんでるけど大丈夫?
A3:軽度のむくみなら問題ない場合もありますが、注意が必要です。
特に指が青紫色になっている、強いしびれや感覚の鈍さがあるといった症状がある場合は、ギプスが過度に圧迫して血流を妨げている可能性があります。そのまま放置すると神経や血管の障害につながることもあるため、できるだけ早く医療機関を受診してください。
Q4:ギプスの中がかゆい…対処法は?
A4:掻かずに風を当てるなどの工夫をしましょう。
ギプス内の蒸れや熱が原因でかゆみを感じることがありますが、**中に物を入れて掻いたり、棒でつつくのは絶対にNGです。**皮膚を傷つけたり、感染症を引き起こすリスクがあります。ドライヤーの冷風を使ったり、保冷剤をタオル越しに当てて涼しくするのが効果的です。我慢できない場合は医師に相談を。
Q5:ギプスに落書きしていいの?
A5:基本的に落書きは問題ありません。
ギプスの表面は硬く、日常生活での摩耗にも強いため、マジックなどでメッセージや絵を描くことは多くの患者さんが行っています。ただし、**一部のインク成分は皮膚に染み込みやすい場合があり、皮膚トラブルを引き起こす可能性もあります。**インクがにじんで中に浸透しないように注意しながら、自己責任で楽しんでください。
Q6:みんな“ギブス”って言ってるけど、“ギプス”が正しいの?
A6:整形外科などの医療現場では「ギプス」と表記・発音するのが正確です。
語源はドイツ語の「Gips(ギプス)」で、これは「石膏」を意味します。整形外科で使われるギプスの材料にも石膏が使われていることから、この名称が由来となっています。
ただし、日本ではテレビや漫画の影響もあって、「ギブス」という呼び方が広く知られるようになりました。そのため、日常会話ではどちらを使っても通じるのが現状です。
医療従事者の立場としては「ギプス」を正式名称として使いますが、患者さんが「ギブス」と言ってもまったく問題ありません。
院長からのメッセージ
「痛みがなくなったからといって自己判断で固定を外すのは非常に危険です。
実際、早期に固定を外してしまい、骨がずれてしまった患者さんもいらっしゃいました。
固定の役割は“患部を休ませて、正しく治す”こと。自己判断せず、必ず医師の指示を守りましょう。」
まとめ
- ✔️ ギプスは完全固定が必要なときに
- ✔️ シーネは腫れや軽度の損傷に対応
- ✔️ 固定期間は痛みの有無ではなく組織の回復状況で判断
- ✔️ 入浴時や運動再開時も、医師の判断を仰ぐ
ギプスもシーネも、正しく使えば非常に有効な治療手段です。もし気になる症状や疑問があれば、お気軽に当院までご相談ください。
参考文献
- 日本整形外科学会「外傷診療ガイドライン」
- O’Shea K, et al. “Management of acute ankle sprains.” J Am Acad Orthop Surg.
- 橋本健史「整形外科診療マニュアル 第6版」
- AO Trauma Manual “Principles of Fracture Management”
- Schaffer NE, et al. “Splinting and Casting: Indications and Techniques.” Emergency Medicine Clinics of North America