【段差に油断禁物!】足首をひねる“うっかり捻挫”の瞬間
診察室で「階段を下りていたら足を踏み外して…」という話を伺うことは意外と少なくありません。特に外出先の段差や階段は、不意に足を取られることがあり、誰にでも起こりうるケガです。 今回は、そんな“うっかり”から起こる足首の捻挫について、実際のシチュエーションとともに、原因や注意点をわかりやすくお伝えします。
階段を一歩踏み外して…
「外出先のショッピングモールで階段を降りていたとき、目の前の看板に気を取られていたら、足元の段差に気づかず、一歩踏み外して“グキッ”…。その場では歩けたけど、夜になるとどんどん腫れてきて痛みで足をつけなくなりました」
このような捻挫は、階段の“下り”動作特有の構造に原因があります。
階段を降りるときは、重心が前方にかかり、体の勢いがついた状態になります。そのため、一歩でも着地が乱れると、足首の**内側(内反方向)**に急激な負担がかかり、靭帯を損傷してしまうことがあります。
特に急いでいたり、手に荷物を持っていたり、視線が前方に向いている時ほど、足元への意識が薄れがちです。ちょっとした油断が、後々の痛みや通院につながる可能性があるため、階段は「一段一段に集中」する意識が大切です。
ヒール・高齢者は特に注意が必要
「会社帰り、ヒールを履いて駅の階段を下っていたときに、踏み外してしまいました。痛みはそこまで強くなかったのに、帰宅後からどんどん腫れてきて、翌日整形外科で捻挫と診断されました」
ヒールやソールの高い靴は、着地面が狭く不安定なため、足首にかかる負担が増します。また、ヒールの先端が段差の縁に引っかかるなど、足首が思いがけない方向へねじれるリスクも高まります。
一方で、高齢の方は加齢により足関節まわりの筋力やバランス能力が低下しており、段差での踏み外しや、わずかなつまずきが大きなケガにつながることがあります。
「これくらいなら平気」と思っていても、筋力や反応速度の衰えにより、踏みとどまれないケースが増えてくるのです。
ヒールの使用を控える、手すりを活用する、荷物は片手に偏らないよう持つなど、小さな対策が大きなケガを防ぎます。
階段だけでなく、街中の小さな段差も
「駅前の横断歩道を渡ろうとした時、歩道と車道の間の段差に気づかず、足をグキッとひねってしまいました。スマホを見ながらだったので、まったく段差の存在に気づいていませんでした」
捻挫と聞くと「運動中のケガ」というイメージがあるかもしれませんが、実は最も多いのは日常のなかにある“気づかない段差”によるものです。
・歩道と車道の境目
・駐車場の縁石
・店舗の入口の1段上がった段差
こうした場所は、段差の存在が目立たず、無意識のまま足を下ろしたときにひねってしまうリスクがあります。
特に、スマートフォンを見ながらの歩行や、急いでいるとき、慣れた道で気が緩んでいるときには注意が必要です。段差は「あるかもしれない」と思って歩くことが、最もシンプルな予防策になります。
捻挫はその場で「軽い」と判断しない
「ちょっとひねっただけだったので、そのまま買い物を続けました。帰宅後、足首がパンパンに腫れていてびっくり。病院に行くと『靭帯が伸びてますね』と診断されました」
捻挫は、初期には歩けることも多く、「たいしたことない」と思って放置されがちです。ですが、実際には靭帯の一部断裂や関節内の炎症が進行していることも多く、時間が経つにつれて腫れや痛みが強くなるのが特徴です。
大切なのは、違和感を感じた時点で立ち止まり、
・アイシング(15〜20分を数回)
・患部を心臓より高くして安静
・なるべく歩かず負担をかけない
といった初期対応を行い、必要であれば整形外科を受診することです。
軽いと思って放置することが、長期的な不調や再発の原因になる――そのことを、ぜひ覚えておいてください。

【リハビリ】日常生活に戻るための3ステップ
捻挫をしてしまったとき、無理をして動かすと、かえって治りが遅くなったり、再発のリスクが高まったりします。 一日でも早く普段の生活に戻るためには、「痛くなくなったら終わり」ではなく、**段階を踏んで足首の機能をしっかり整えていくこと**が大切です。以下の3つのステップを目安に、無理のない範囲で少しずつ身体を慣らしていきましょう。
炎症期(受傷直後〜3日程度)
ケガをして間もない時期は、足首の周囲が腫れていたり、熱をもっていたりすることが多いです。この時期は、患部を刺激せず、できるだけ腫れや痛みを広げないようにするのが基本です。
- RICE処置を行いましょう。 安静(Rest)、冷却(Ice)、圧迫(Compression)、挙上(Elevation)を丁寧に行うことで、腫れや炎症を最小限に抑えることができます。氷水をビニール袋に入れてタオル越しに冷やすのが安心です。
- 無理な移動や入浴は控えめに 少し良くなったように感じても、長時間の移動や湯船に浸かると血流が促進され、腫れが悪化することも。必要な移動は最小限にし、湯船ではなくシャワーで済ませましょう。
この時期は、「あれもこれもできない」と感じるかもしれませんが、体をしっかり休めることも大切な回復の一部。
読書をしたり、気になっていた映画をゆっくり観るなど、少しのんびり過ごすくらいの気持ちで大丈夫です。
修復期(3日〜2週間程度)
腫れや痛みが落ち着いてきたら、少しずつ足首を動かし始めましょう。ずっと動かさないままでいると、関節が固まり、筋力や柔軟性が落ちてしまいます。
- 足首を回す、タオルギャザー、チューブ運動などを取り入れて、無理のない範囲で動かすことが大切です。テレビを観ているときや、朝の準備の合間など、日常の中で気づいたタイミングで取り入れると続けやすくなります。
- 短い距離の歩行や軽いストレッチも有効です。家の中で数歩歩いたり、寝る前にふくらはぎを軽く伸ばすだけでも、筋肉が少しずつ反応してくれます。
ちょっとした運動のあとに、「昨日より動かしやすいかも」と感じられたら、それが小さな前進です。
1日の中で何かひとつでも「できた」があると、自然と心にも余裕が生まれてきます。
回復期(2週間〜4週間以降)
見た目には腫れが引き、痛みも少なくなってくる時期です。ただ、ここで油断すると再発のリスクが高くなるため、**「動けるようになってからが本番」**と考えて、足首の安定性やバランス機能を整えていきましょう。
- 段差を使ったカーフレイズ つま先立ちになってかかとを上下に動かす運動です。洗面所で歯を磨きながら行うなど、習慣に組み込むと自然に継続できます。
- 片足立ちや不安定な場所でのバランス練習 キッチンマットや少し柔らかめのマットの上で行うと、足裏の感覚やバランス機能をよりしっかり刺激できます。最初は10秒からでもOKです。
この時期は、「あれ、以前よりも足がしっかりしてきたかも」と感じる瞬間が増えていきます。
日々の中でそんな小さな変化に気づけると、体が前向きに変わってきていることを実感できるはずです。
【再発予防】足首を守る3つの準備
捻挫は、一度起こすと「クセになる」と言われるように、再発しやすいケガのひとつです。 特に、靭帯が緩んだ状態のまま回復を終えると、ちょっとした段差や踏み込みで再び足首をひねってしまう可能性が高まります。 そうならないために、日常の中で意識したい3つの準備をご紹介します。
① 足元の環境確認
まず大切なのは、**「足元を確認する習慣」**をつけることです。意識するだけで防げる転倒リスクは意外と多くあります。
- 外出時は、段差・傾斜・滑りやすい床に注意 例えば駅の階段、店先の段差、雨で濡れたタイルなどは滑りやすく、足首をひねりやすい場所です。足を置く前に“段差があるかどうか”を目で確認することが予防につながります。
- 暗い場所ではライトや足元灯を活用 夜道や廊下、玄関などで足元が見えにくいと、ちょっとした段差や障害物につまずく原因になります。スマートフォンのライトや玄関のセンサーライトなど、手軽にできる対策を取り入れましょう。
- 自宅の環境も見直して 玄関マットやカーペットのめくれ、段差のある廊下など、自宅内にもリスクは潜んでいます。「転びやすい場所を見える化して、事前に対処する」ことが足首を守る第一歩です。
② 靴の選び方を見直す
足首の安定性は、履いている靴に大きく左右されます。履き慣れた靴でも、「足を守る構造になっているかどうか」を一度見直してみましょう。
- ヒールや厚底靴は慎重に ヒールは不安定になりやすく、踏み外しやバランスの崩れに直結します。外出先で長く歩く日や、階段・段差の多い場所では控えたほうが安心です。
- 靴のかかとがしっかりしているものを選ぶ 足首まわりをしっかり固定できる構造の靴は、ねじれやグラつきを防いでくれます。スリッポンやサンダルのように、足を入れるだけの靴は、歩行中のブレを誘発しやすいため注意が必要です。
- 靴底のグリップ力も確認 滑りやすい靴底は、雨の日やツルツルした床での危険が増します。できれば靴裏がしっかりと凹凸加工されているものを選び、定期的に靴底のすり減りもチェックしましょう。
③ 足首のトレーニング
再発を防ぐ最大のポイントは、足首そのものの「支える力」を育てることです。毎日少しずつ取り入れられる簡単な運動で、足首の安定性とバランス能力を高めましょう。
- カーフレイズ(つま先立ち) 段差のある場所で、かかとをゆっくり上下に動かす運動です。ふくらはぎや足首の筋肉を鍛えることで、体の“踏ん張る力”がつき、着地時の安定感が増します。洗面所での歯磨き中など、日常動作の合間に取り入れると習慣化しやすいです。
- タオルギャザー 床に置いたタオルを足の指でたぐり寄せる運動です。足裏や足指を鍛えることで、地面をしっかり掴む感覚が身につき、ふいなバランスの崩れにも対応しやすくなります。
- 片足立ちバランストレーニング 片脚で立ち、左右の足を交互に鍛えていきます。慣れてきたら、目を閉じたり、柔らかいマットの上で行うことで、足首まわりの感覚をより刺激できます。最初は10秒から、少しずつ時間を延ばしていくのがポイントです。
捻挫の再発予防に必要なのは、「特別なことをする」ことではなく、普段の生活の中で、少しだけ“足元に気を配る”ことの積み重ねです。
一度ケガをしたからこそ、自分の体と丁寧に向き合うチャンスでもあります。明日の安心のために、できることからコツコツ始めてみましょう。
最後に|「たった一段の段差でも、油断は大敵です!」
「ほんのちょっとした段差」「気を抜いた瞬間」が、思わぬケガにつながります。 たとえ軽い捻挫でも、放っておけば後々大きな不調の原因になりかねません。 しっかり対処し、再発を防ぐことで、安心して日常生活に戻れるようにしましょう。




